中小企業者等対象賃上げ促進税制について解説
賃上げ促進税制、通称「賃上げ税制」は、企業が従業員に支給した給与を一定以上増加させた場合に受けられる税制優遇です。中小企業では人手不足に対応すべく、賃上げの動きが進みつつあるものの、なかには原資不足で賃上げが難しいと考えている企業も一定数存在します。賃上げ税制は、そのような企業の給与引き上げを支援するために設けられた制度です。今回は中小企業者向け賃上げ促進税制についてお話したいと思います。
〇適用対象となる中小企業者
・資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
・資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人(受託法人を除く)
・常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
・協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等)
ただし下記に該当する企業は、上記企業であっても中小企業とはみなされません。
・発行済株式または出資の総数または総額の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人
・発行済株式または出資の総数または総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人
・受託法人
また、これらに該当しない企業においては、青色申告書を提出する従業員数2000人以下の企業は中堅企業、どれにも該当しない場合は大企業として分類されます。
〇賃上げ促進税制の適用要件と控除額
・必須要件
雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増加している場合、増加額の15%、2.5%以上増加している場合、増加額の30%を法人税額または所得税額から控除できます。具体的には、以下のような計算で判断します。
(適用年度の雇用者給与等支給額-前事業年度の雇用者給与等支給額)÷前事業年度の雇用者給与等支給額≧1.5% or 2.5%
対象となるのは国内雇用者に対する給与等であり、パートやアルバイト、日雇い労働者も含みます。ただし、法人の役員や役員の親族、個人事業主の親族などの給与は対象外です。
〇上乗せ要件
①企業が支払う教育訓練費の金額が前年度より5%以上増加している場合に、税額控除率が10%上乗せされます。教育訓練費とは、国内の雇用者が職務を行ううえで必要な技術や知識の習得のために支出される費用のうち、外部に支払う費用のことを指します。教材の購入費や研修に参加するためにかかる旅費交通費、自社設備使用による光熱費などは含まれません。また、法人の役員・個人事業主とその親族や、内定者に対する教育訓練費は対象外となります。
上乗せ要件①の適用可否を判断する計算式は、以下の通りです。
(当年度の教育訓練費の額-前事業年度の教育訓練費の額)÷前事業年度の教育訓練費の額 ≧ 5%
②子育てとの両立・女性活躍支援を行っている企業として、「くるみん以上」か「えるぼし二段階目以上」認定された企業には、税額控除率が5%上乗せされます。「くるみん認定」は一定の要件を満たした場合、子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けることができます。「えるぼし認定」は女性の活躍に関する取組の実施状況が優良な企業について、厚生労働大臣の認定を受けることができます。
〇まとめ
これらをまとめると、法人税額または所得税額を最大45%控除することができることになります。人材確保や従業員のスキルアップにもつながるため、ぜひ活用したい制度だと思います。本制度は令和6年4月1日から令和9年3月31日までを適用期間として設けられています。また、今後の国会審議等を踏まえて施策内容が変更となる可能性があります。
参考:中小企業庁HP 中小企業向け「賃上げ促進税制」
大阪の税理士 杉本会計事務所
大阪市東住吉区杭全3-4-4
企業第二課 監査担当 大西純平